離婚協議書の清算条項
離婚の条件の中で、財産分与と慰謝料とは当事者間で一体的に話し合われることがあります。
しかし、実務では、まずは分けて考えることが一般的です。
判例でも、「財産分与がなされても、それが損害賠償の要素を含めた趣旨とは解せられないか、そうでないとしても、その額及び方法において、請求者の精神的苦痛を慰藉するには足りないと認められるものであるときには、 既に財産分与を得たという一事によって慰藉料請求権がすべて消滅するものではなく、別個に不法行為を理由として離婚による慰藉料を請求することを妨げられない」(最高裁昭和46年7月23日)とされています。
つまり、既にされた財産分与が慰謝料の意味を十分に含む場合には別ですが、そうでなければ別途に慰謝料請求が可能とされているのです。
とはいっても、離婚して、財産分与をして、慰謝料を請求して、と順番にやっていては当事者双方にとって煩わしいので、一気に解決するのが便利です。
財産分与も慰謝料も支払者が同じであれば一気に支払ったり、支払者が別であれば双方合意のうえ相殺して支払ったり、場合によって、同じぐらいの額であればお互いに支払いはなしとしたほうが、分かりやすくなります。
しかし、当事者同士で話しをする場合、名目を定めずに「50万円を支払って離婚」のように決めていることも多いです。
この場合、片方の当事者は預貯金の分配と慰謝料を込みで解決と考えていても、もう片方は財産分与のみでこの金額と思い込んでいることもあり得ます。
判例の論理だと、場合によって、上記金額を支払っても、慰謝料の請求が別にされる可能性があります。
当事者は、離婚後にはこのようなトラブルを残したくないと考えるのが通常ですので、離婚を協議書などには、清算条項という条項を入れることが一般的です。
例えば、「甲と乙は、本件に関し、本和解条項に定める以外に何らの債権債務のないこを相互に確認する。」などと入れることが多いです。
これで、当事者間においては紛争の蒸し返しを防ぎます。
たまに、当事者間で作成した和解条項に、清算条項が入っていないことがあります。
清算条項が入っていないと、例えば、うっかり決め忘れたことなどは後で決めることが出来ます。
しかし、実際には、清算条項が入っていないために、お互い納得して取り決めをしなかった点が蒸し返されて、トラブルになることもあります。
合意書作成時には、よく内容を確認した上で、清算条項を入れて解決することが望ましいでしょう。